先輩上司と秘密の部屋で

「門倉くん、そこまでして杏奈ちゃんの気を引きたいわけ? しつこくすると嫌われるよ」


美那に咎められ、門倉の反抗心が徐々に増していく。


(真実を伝えようとしただけなのに、なぜ俺が悪者呼ばわりされないといけないんだ……!)


もう、どうにでもなれと思った。

杏奈が傷つこうが泣き喚こうが関係ないと、門倉はついに腹を決める。


「お、俺は見たんだ!」

「へー。何を?」


ほとんど関心のない美那の返事に、門倉は憤慨する。

口を手で塞いだまま笑いを堪えている杏奈の肩を掴み、無理やり自分の方を向かせていた。


「杏奈ちゃん! 君のお兄さんは黒谷と愛し合ってる。ふたりが仲睦まじく寄り添いあっているのを俺はこの目で見たんだ!!」

「ぶっ!!」


その時杏奈は、またしても盛大に吹き出してしまう。

門倉は狙っているとしか思えない。笑いすぎて、杏奈は普通に呼吸をするのもままならなかった。


「嘘つくなら、もっとマシな嘘つきなさいよ」

「門倉さ、……い、痛いからもう……やめてっ」


杏奈の目尻に涙が滲む。笑われた上に嘘つき呼ばわりされるのは、門倉にとって非常に不本意な状況であった。


「杏奈ちゃ……」




「門倉」


突如響いた、不機嫌全開の低い声。

門倉の背筋は、一瞬で凍りついていた。

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