先輩上司と秘密の部屋で

「……杏奈に手を出したら、お前のこと、営業で働けなくするよ」


突然近づいてきた隼人に低い声で囁かれて、門倉は思いきり表情を強ばらせる。

隼人が垣間見せた裏の顔。門倉以外に見たものは、誰もいなかった。

常識的に考えて、ただのいち社員である隼人に、誰かを他部門に飛ばすような権力はない。

しかし隼人の目の奥は全くと言っていいほど笑っておらず、どこか現実味を帯びた物言いに、門倉は薄ら寒さすら覚えていた。


「俺が言ったこと、忘れないでね」


ここまで徹底的に釘を刺されるまでのことを、自分がしたとは到底思えない。

何事もなかったように笑顔を貼り付ける隼人の様子を、門倉は眉をひそめながら慎重に伺っていた。


(仮にも成人してる妹なのに。過保護すぎるだろ……)


自分の恋人である嵐士ならば、絶対に杏奈へ手出ししないと踏んだに違いない。

女嫌いの嵐士がわざわざ杏奈の教育係に名乗りをあげた本当の理由はそれだと、門倉は心の中で確信していた。

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