先輩上司と秘密の部屋で

「杏奈ちゃんて今彼氏いないの? いたら門倉くん、出番すらないじゃん」

「だから俺は違うって」

「……へっ!?」


(何でいきなり私の話? どういう流れでこうなったの?)


それまでずっと嵐士のことばかり気にしていた杏奈は、いきなり美那に話を振られてパニックになる。

しかも今一番触れてほしくないデリケートな話題だけに、バッチリ“まずい”と顔に出してしまった。


「なんかその顔怪しい~。隠しても無駄だからね?」


興味津津で覗き込んでくる美那を誤魔化そうとして、杏奈は曖昧な仕草で首を傾げてみる。

そのまま顔を横に逸らすと、怖いくらい無表情な隼人と目がバッチリ合ってしまった。


「杏奈は今、彼氏と一緒に暮らしてるよ」

「え、嘘っ!? 杏奈ちゃんて同棲してるの? 隼人くんよく許したねー」


勝手に暴露してしまった隼人の言葉に、杏奈の瞳が驚愕で見開かれていく。


(なんで……皆の前で言うの?)


「……確かに心配だけど、杏奈ももう子供じゃないから」


隼人のひどく落ち着いた声を聞きながら、杏奈はゆっくりと視線を足元に移していく。

嵐士の顔は、もう見れない。

こんな話を聞かれてしまうのが、杏奈は嫌で嫌で仕方が無かった。

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