先輩上司と秘密の部屋で

「か、門倉さんっ。コーヒー、やっぱり私が淹れてきますね!」

「え?……ああ。じゃあよろしく」


いきなりでわざとらしかったかもしれないが、いちいち気にしていられない。

杏奈は一刻も早く、この場を離れたかった。

門倉も気持ちを察してくれたのか、先ほどのように止めたりしてこない。

勢いよく席から立ち上がった杏奈は、顔を伏せたまま隼人と嵐士の脇を通り過ぎようとしていた。


「あ、ねぇ杏奈。給湯室の場所わかる?」

「……あ」


隼人に呼び止められて、杏奈は思わず足を止める。

給湯室どころか、このフロアの化粧室すら把握出来ていない。

一応館内の案内図には目を通してあるが、実際歩いてみないと覚えることは不可能だった。


「適当に、自分でフロア見て回るから……」

「それじゃ効率が悪いよ。嵐士って杏奈の教育係になったんだよね? このまま、フロア全部案内してやってくれない?」


隼人の突然の提案に、杏奈は目を瞬かせる。

その瞬間紺色のスーツが視界に入り、思わず後ずさってしまった。

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