先輩上司と秘密の部屋で
「あの、黒谷先輩。ありがとうございます……!」
羨望の入り混じった瞳で後ろを振り返れば、嵐士は何故か自分の口を隠すように手で押さえていた。
長いまつ毛を伏せながら、気まずそうに視線を泳がせている。
嵐士が照れているとわかった瞬間、杏奈は嬉しくなって思わず破顔してしまった。
「……別に」
(黒谷先輩はきっと、無愛想じゃなくて照れ屋で優しい人なんだ。……そうじゃなかったら、わざわざこんな面倒なことしてくれないはず)
杏奈はそれ以来、嵐士のことを無意識に目で追うようになってしまった。
相変わらずいじめは絶えなかったが、嵐士の姿を見つけることが出来た日は、それだけで気分が急上昇してしまう。
そうこうしているうちに、今度は動悸に加えて、息切れとめまいまで併発する。
友人はそんな杏奈の変化をなぜか微笑ましげに見つめていたけれど、杏奈自身はそんな目まぐるしい気持ちの変化についていけなくなっていた。