先輩上司と秘密の部屋で
(お兄ちゃん、なんか痩せた……?)
少し顔のラインの線が細くなったように思えて、杏奈はさらに隼人の顔を覗き込む。
血色のいい頬とは対照的に、指先から首筋まで他は全部白い。
目の下には、うっすらと隈のあとのようなものまで出来ていた。
「ずっと……ここにいて」
縋るような声とともに吐き出された隼人の本心に、杏奈は心が締めつけられる。
隼人の顔を間近で見るまで、杏奈はその変化に全く気がつけなかった。
どれほど心配をかけたのだろう。
頭ごなしに反対されたからといって、なかば飛び出すように家を出て。
意地を張って二週間以上も連絡を取らなかった自分の行為は、最低としか言いようがない。
こんなに弱々しい隼人の姿を見たのは、後にも先にも昔一度きりだ。
隼人に掴まれた手を、杏奈は無意識にギュッと強く握り返していた。
「……あの……おに、兄のことは……私がやります。今日は……ありがとうございました」
何か言いたげな目で見つめてくる嵐士の方を振り返り、杏奈は精一杯勇気を振り絞ってお礼を言う。
嵐士は、何も返事することなく部屋を出た。
ゆっくりと閉まるドアの向こうに見えるは、自分が望んだ光景のはず。
なぜか釈然としないのは、やはりふたりが“兄妹”だからだろう。
ベッドで寄り添うふたりの姿は、いつまでも嵐士の頭に焼きついていた。