先輩上司と秘密の部屋で
act.3 三つ巴の思惑
――なんだか、女の子のいい匂いがする。
洗いざらしのリネンにすら敵わない、癒しの香り。
散々惰眠をむさぼって朝まで眠りこけた隼人が身体を起こすと、隣にスーツ姿で寝そべる女の背中が見え、頭が一気に覚醒した。
ヨレヨレのリクルートスーツに、肩の位置で切り揃えられたマロンブラウンの髪。
そこから覗く白いうなじが、寝起きの隼人の目にはやけに扇情的に映る。
連れ込んだ覚えは全くない。
嵐士が家まで介抱してくれたことだけはかろうじて覚えているのに、そのあとの記憶は完全に消失していた。
自分よりもずっと小柄な体型。折れそうなくらい細い手足。
隣で眠る見知らぬ女の子があまりにも杏奈に似ていて、隼人はゴクリと息を呑む。
帰らぬ妹を恋しく思うあまり、本人だと勘違いしてその辺の子を連れ帰ってしまったのかもしれない。
本気でそう思ってしまうくらい、昨日の隼人は参っていた。
何もかもうまくいっていたはずなのに、突如として生じた誤算。
普段なら絶対口にすることのないアルコールに頼るほど、隼人のストレスは限界に達していた。