先輩上司と秘密の部屋で
杏奈に対する庇護欲は、絶大なものだと言っても過言ではない。
隼人は物心がついた頃からずっと、杏奈のことを当たり前に守るべきものと認識していた。
何から何まで世話を焼いたし、おそらく親以上の愛情を注いだ。
それくらい杏奈が可愛くて、危険な目になんて死んでも合わせたくなかった。
手塩にかけて育ててきた杏奈に、本人こそ気づいていないが、惹かれたものは後を絶たない。
自分が男であるからこそ、隼人はその狡猾さを誰よりも理解していた。
男が女に軽々しく“好きだ”と言うのは、身体を手に入れるための常套句に過ぎない。
だから高校まで、杏奈に近づく不穏因子は隠れて徹底的に排除してきた、……はずだった。
杏奈が大学に進学して二年目の春。
その年就職したばかりの隼人は、慣れない仕事も精力的こなしていたが自分のことで精一杯だった。
その隙を突かれる形で、杏奈の彼氏の座を射止めた男が現れたのだ。
杏奈を唆し、挨拶一つもなく同棲にこぎつけたその男のことを、隼人が許すはずもない。
猶予は二週間もやった。
だからようやく杏奈を取り戻せると思ったところで、隼人は再び苦行を強いられることになるとは夢にも思わなかった。