先輩上司と秘密の部屋で
それは幼少期からの隼人が杏奈に言い聞かせてきた、魔法の言葉。
腕の中で震えながら小さく頷いた杏奈を、隼人はさらに強く抱きしめていた。
「もう……出て行くなんて二度と言わないね」
「……うん」
「恋愛も……しばらくいいや」
何処か遠くを見つめながら、杏奈が涙混じりの声で呟く。
願ってもないその言葉に、顔の筋肉が緩むのを隼人は堪えきれなかった。
ざまあみろ門倉と、一番に思ったのは言うまでもない。
これでしばらくの間、心配事がなくなる。
隼人はホッと胸を撫で下ろしていた。
「そういえばお兄ちゃん、私の配属先何か手回したでしょ」
「ん……?」
「しらばっくれてもダメだよ。営業はトップクラスのエリートしか配属されないって、オリエンテーションで説明受けたんだから」
まさかそこを追及されると思っていなかった隼人は、不自然に目を泳がせてしまう。
隼人のこういった過保護な行いを、杏奈は快く思っていない。
杏奈の機嫌を損ねたくない隼人は、どうにか誤魔化せないかと必死で作り笑いを浮かべていた。