先輩上司と秘密の部屋で
「あ、杏奈……」
「まぁでも。お兄ちゃんと一緒に働けるのは、嬉しいんだけどね……」
てっきり責められると思っていた隼人は、照れくさそうに笑う杏奈の姿に目を丸くする。
やけに素直な杏奈が、可愛くてたまらない。
可愛すぎて困るくらいだと、隼人は思わず額を手で覆った。
「どうしたの?」
「な、何でもない……」
「まだお酒が残ってるんじゃ……。出勤まで一時間以上あるし、もう少し横になってて?」
まさか杏奈のせいだとは言い出せずに、隼人は再び身体をベッドに横たわらせる。
腕の中から抜け出して立ち上がった杏奈を、名残惜しい気持ちで見つめていた。
「じゃあ私、シャワー浴びてくるから」
「あ、うん……」
何気ないそのセリフが、またしても隼人の気持ちを高揚させる。
(杏奈とまた、一緒に暮らせる……)
隼人はどうしようもないくらい、浮かれていた。
だから一番大事な話を伝えていないことに、全く気づいていなかった。