先輩上司と秘密の部屋で
混乱と驚きが頭の中を支配し、心臓の鼓動がどんどん勢いを増していく。
「隼人に誤解される」
感情を伴わない嵐士の声に、動揺は感じられない。
“わかったか?”と精悍な顔で凄まれた杏奈は、息を殺したまま小さく頷くことしか出来なかった。
引き締まったその上半身から溢れ出す壮絶な色気のせいで、しっかり気を保っていないと、今にも卒倒してしまいそうになる。
状況からいって風呂上がりの嵐士は、バスタオルの他に何も身につけていない。
下は見ない絶対見ないと、杏奈は極限状態の自分に何度も言い聞かせていた。
(あのまま帰ったと思ってたのに、まさか、勝手に泊まった? 何で……)
このマンションは全室オートロックで、戸締りを確かめる必要がない。
隼人に手を握られて身動きが取れないせいでもあったが、だからこそ杏奈は昨夜玄関まで嵐士を見送らなかった。
このままじゃ埒があかないと考えた杏奈は、これ以上嵐士の裸体を視界に入れたくなくてギュッと目を瞑る。
お願いだから早く何か着てほしいと、心の中で切実に願っていた。
嵐士の息遣いが聞こえるほど近いふたりの距離に、杏奈の顔はどんどん赤みを帯びていく。
口を覆っていたバスタオルから、やっと解放された瞬間。
息を呑むような音が、杏奈の耳のすぐそばから聞こえてきた。