先輩上司と秘密の部屋で
嵐士はバスタオルを放り投げ、やや乱暴にドラム式洗濯機の外ドアを閉める。
(一緒に住むとなると、……何かと面倒だな)
もしこれが逆の立場だったらと一瞬考え、すぐに頭の中から想像をかき消した。
隼人に信用していると言われた手前、こんなことで取り乱している場合ではない。
嵐士は気を取り直し、小動物のように縮こまっている杏奈の姿を一瞥する。
――あの日から、たったの二週間。
結局全てが隼人の思惑通りに事が進んだことに、嵐士は内心驚きを隠せなかった。
昨夜インターフォンのカメラをのぞき込む彼女の姿を見た時なんて、ダイニングチェアに躓き、思わずそれを豪快に倒してしまったほどだ。
「いつも……、朝入るのか」
頑なに目を瞑っている杏奈に直接声をかけると、線の細い肩が大きく跳ねる。
怖々目を開けた杏奈は、嵐士の姿を視界に捉えた瞬間、首を竦めるようにして俯いてしまった。
目も合わせようとしない杏奈の態度に、心はささくれ立っていく。
嵐士の周りに不機嫌なオーラが立ちこみ始めたことに、杏奈は気づいてすらいなかった。