先輩上司と秘密の部屋で
嵐士はフード付きのパーカーに、ラフなスウェットパンツを難なく着こなしている。
スーツ姿とはまた違った無防備なその姿は、杏奈の心にぐっとくるものがあった。
多くの女性に共通することで、もちろん杏奈もこういうギャップにめっぽう弱い。
さっさと出て行くと思った嵐士に突然わけのわからない話を振られ、杏奈は混乱の境地に立たされていた。
(朝入るのかって……お風呂のこと? なんで、わざわざそんなこと聞いてくるの!?)
嵐士は裸を見られたことなんて、全く気にする様子も見せない。
女の人に見せ慣れているようなその堂々とした雰囲気に、杏奈は小さな心の痛みを覚え、顔を上げることがなかなか出来ないでいた。
「おい。どうなんだ」
苛立ちを隠しきれない低い声に急かされて、杏奈はもどかしさから唇を噛みしめる。
嫌いなら、徹底的に構わないでほしい。
こうやって中途半端に嵐士と関われば、杏奈は忘れられなくなる。
初めて会話した時に見た、嵐士の優しいはにかんだ笑顔。
どうしてももう一度見たいと、欲張りな自分が顔を出してしまうから。
「き、昨日はあのまま……お兄ちゃんと一緒に寝ちゃったから……。今日だけ……たまたまです」