先輩上司と秘密の部屋で
僅かに声を震わせながらも、杏奈はなんとか言い切った。
会話もろくに出来なかった昨日の状態に比べれば、幾分マシになったと言える。
相変わらず目だけは合わせられないが、すぐに逃げ出してばかりだった弱虫の杏奈にとって大きな一歩だ。
「隼人と……一緒に……」
急に隼人の声のトーンが落ち、杏奈はその異変に気づく。
ちらっと目線を送ってその様子を伺うと、嵐士は考え込むようにして眉間に皺を寄せていた。
(どうしたんだろう……黒谷先輩)
杏奈は昨夜隼人と寝ることになってしまっても、それほど抵抗を持たなかった。
小さい頃両親が仕事で不在の時、寂しさを紛らわすため、隼人の隣で眠ることが多かったからだ。
昔から数え切れない程の夜を一緒に過ごし、いつしかそれは当たり前になっていた。
「……いつもなのか」
「え?」
「その……いつも……隼人と同じベッドで……」
嵐士が言いにくそうにしているのを見て、杏奈の顔が赤面する。
おそらくとんでもない誤解をされているのではないかと思い、大げさなくらい杏奈は首を横に振っていた。