先輩上司と秘密の部屋で
「じ、実際一緒に寝てたのは小学生までです!! 昨日はお兄ちゃんが手を離してくれなくて、仕方なく……」
嵐士に向かって必死で言い訳しながら、杏奈は赤くなった頬を両手で覆う。
実は小学生の時も、仲のいい友達にそのことを話し、しつこくからかわれた経験があるのだ。
自分にとってはごく普通のことなのに、男の兄弟と一緒に寝るなんて気持ち悪いと言われ、杏奈は大きなショックを受けた。
だからそれ以来ひとりで寝るようになったし、ふたりで住むようになってからも、同じベッドで寝た事なんて一度もない。
――そう、昨夜までは。
痛いたしく掠れた低い声と、指先まで真っ白な腕。
あそこまで弱りきった隼人を目の当たりにして、冷たく突き放すような真似は出来なかった。
杏奈の話を聞いた嵐士は、幾分ホッとしたように顔の強張りを緩めている。
「あ……の……?」
納得してもらえたのだろうかと杏奈が首を軽く傾げてみると、嵐士はなぜか唇の辺りを自らの手で覆い隠してしまった。