先輩上司と秘密の部屋で
(これは一体……、どういう反応なんだろう……)
杏奈はそわそわと落ち着かない心を持て余しながら、黙り込んでしまった嵐士の様子を伺う。
真っ黒なその瞳に、いつもの冷たさは感じられない。
それどころか彼はやや目尻を下げ、先ほどよりも断然柔和な雰囲気を漂わせていた。
顔の半分が隠れているにも関わらず、嵐士の表情からは嬉しさのようなものが滲み出ている。
そのことに気づいてしまった瞬間、杏奈は少なからず動揺した。
全く興味がない、むしろ嫌われていると思っていた相手にこんな顔をされて、冷静でいられるはずがない。
今の話の何が嵐士の琴線に触れたのだろうと、本気で考え込んでしまうくらいだった。
「……そうか」
間を置いてからそう返事をした嵐士の顔は、いつの間にか普段の無表情に戻っている。
見間違えだったのではないかと思うほどの切り替えの速さに、杏奈は唖然とし言葉を失ってしまった。
「風呂のことだけど。俺は朝か、夜一番最後に入るようにするから」