先輩上司と秘密の部屋で
「え……?」
「そういうことで」
「あ、あの、ちょっと待って!!」
そのまま出ていこうとする嵐士を、杏奈は必死で後ろから呼び止める。
わけのわからないさっきのセリフに、そこはかとなく嫌な予感がしたからだ。
「すみません。言ってる意味が、よく……」
「だから。風呂は俺が最後。毎回こうやって鉢合わせしたら……面倒だろ」
「いや……そうじゃなくて」
何を言おうとしてもぶっきらぼうに返されて、取り付く島もない。
(なんで黒谷先輩、毎日同じお風呂に入るみたいな言い方するの……?)
杏奈は嵐士の突飛な言動に、ただひたすら困惑した。
「別に遠慮しなくていい。俺は居候の身だ」
「……いそう、ろう?」
呆然と言葉を繰り返した杏奈に、嵐士は眉を顰める。
彼はそのまま額に片手を添えると、あからさまに大きなため息をついていた。
「……隼人から何も聞いてないのか? 俺が今、この家で暮らしてることも」
放たれた言葉の衝撃は計り知れない。
杏奈の顔は、あっと言う間に驚愕の色に染まっていた。