先輩上司と秘密の部屋で
「い、いいなんて言うわけないでしょ……」
なぜ隼人がこんなに平然としているのか、杏奈には理解できない。
いくら親友と言っても、嵐士は“男”だ。
他人の男と妹を同じ屋根の下に住まわせようとするなんて、杏奈と彼氏との同棲をあれだけ猛反対した男の行動とはとても思えない。
よろよろとその場にへたり込んでしまった杏奈は、戸惑いの表情を浮かべながら隼人の顔を見上げる。
色素の薄い瞳は、真剣そのもので。
とてもじゃないけれど、冗談を言っているようには思えなかった。
「杏奈がいない間、あいつにはかなり世話になったんだ。嵐士の住んでたマンションの契約も、ちょうど切れるタイミングだったし……」
こんな話を持ち出されても、簡単に納得出来るはずがない。
隼人のことに関して感謝は出来ても、一緒に住むことを了承するわけにはいかなかった。
「それでもだめ? ……何か問題ある?」
「そ……れは……」
俯いた杏奈の脳裏に、先ほどの嵐士の完璧な裸体が浮かんでくる。
瞬時に耳まで真っ赤にしながら、杏奈は自分の顔を手のひらで覆い隠していた。