先輩上司と秘密の部屋で
忘れたいと思っても、あの衝撃的な光景が、頭にこびりついて離れない。
これでは顔を合わせるたびに思い出してしまうし、仕事にだって支障をきたしかねないだろう。
ただでさえ杏奈は、嵐士と会話を交わすだけでも精一杯なのだ。
普通に接するだけでも緊張するのに、それが家の中にまで及ぶことを想像するだけで、杏奈は強烈な疲労感に襲われてしまった。
「杏奈?」
「な、何でもない。……気にしないで」
何とか気持ちを立て直しながら、杏奈は隼人の端正な顔に目を向ける。
彼の表情が一瞬だけ強ばったような気がしたが、すぐにそれは優雅な微笑へと変わっていた。
「もしかして気になってる? 嵐士のこと」
「……はっ!?」
隼人に思いもよらないことを言われ、杏奈は再び顔を赤くする。
確かに嵐士といると緊張してしまうが、そこに恋愛感情は存在しない。
しばらく恋はしないと宣言した関わらず、そんな風に取られるのはとても心外だった。
「そんなわけないでしょ。……大体私、彼氏に振られたばかりなんだよ」
「そう? 俺はてっきり、杏奈が嵐士を男として意識してるから、一緒に暮らすの嫌がってるのかと思った」