先輩上司と秘密の部屋で

「嵐士」


ふと隼人の視線が背後に移り、杏奈の肩がびくりと弾む。


「……朝飯、用意したけど。食えるか?」


聞こえてきた声は、紛れもなく嵐士のもので。

杏奈は気まづさから肩を竦め、すがりつくように、隼人のワイシャツの袖口を握りしめていた。


(どうしよう。……今の話、絶対聞かれた)


一体いつから嵐士がいたのか、杏奈には全くわからない。

恐る恐る後ろを振り返ると、半分開いたドアに嵐士が寄りかかっているのが見え、杏奈は静かに息を呑み込んだ。

さっきまで濡れていたはずの髪は乾いていて、ワックスで無造作にスタイリングされている。

お風呂から出てすぐ着替えたのか、嵐士はスタイリッシュな濃紺のスーツを身にまとっていた。


「ありがとう。着替えたら食べるよ。……杏奈と一緒にね」


ぐいっと腕を引かれ、杏奈はそのまま隼人の方に倒れこむ。

咄嗟に胸元にしがみついたため、まるで抱き合うような格好になってしまった。


「ちょ、……お兄ちゃ……」

「杏奈。嵐士には惚れても無駄だよ」

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