先輩上司と秘密の部屋で
耳元でそう囁かれた杏奈は、眉をひそめながら隼人を睨む。
「だから……私は別に……」
「あいつ、普通の男とは違うからね」
隼人が放った衝撃の一言に、杏奈の身体は見事に硬直してしまった。
「それって……どういう意味?」
「さあね」
妙な含みを持たせて笑う隼人に、杏奈の顔から血の気が引いていく。
資料室で隼人が放った、“大切な人と暮らしている”という言葉。
昨日のふたりの様子に感じた、少しの違和感。
嵐士が今朝見せた嬉しそうな顔は、隼人に向けられたもので。
杏奈と嵐士が住むことに隼人が抵抗を見せないことも、簡単に説明がつく。
(うそ、でしょ……?)
唐突に理解した杏奈は、その場で愕然とした。
女嫌いの嵐士と、いつになっても本命の彼女を作らない隼人。
よく考えれば全ての辻褄が合うことに、杏奈は頭を思いきり殴られたような衝撃を受けていた。