先輩上司と秘密の部屋で
「おい。さっさと風呂に戻れ」
隼人とコソコソ話していることが気に食わないのか、嵐士は苛立ちを含ませながら唸るような声をあげる。
杏奈はこの時、はっきりと気づいてしまった。
隼人に無条件で愛され、常に最優先のものとして当然に扱われてきた存在。
嵐士は隼人を独占したいがために、“妹”という存在が邪魔で仕方ないのだろう。
なぜか、裏切られたような気分だった。
単なる気まぐれで構われた方が、よっぽどマシだとさえ杏奈は思う。
あの時嵐士が杏奈を助けたのは、隼人の身内に対する点数稼ぎにすぎなかったのだ。
締めつけられるような胸の痛みを必死で堪え、杏奈は隼人の身体から離れる。
よろよろとベッドから立ち上がった杏奈を待ち受けていたのは、冷酷すぎる嵐士の視線だった。
まるで針のむしろを歩くような痛々しい気持ちで、杏奈は足早に嵐士の脇を通り過ぎようとする。
「……ブラコンなのも、たいがいにしとけよ」
すれ違いざまに嵐士がぼやいた瞬間、杏奈の顔は羞恥と怒りで真っ赤に染まっていた。