ラブソングは舞台の上で

「おはようございまーす」

詩帆さんは、始業ギリギリで事務所に入ってきた。

眠そうな顔をしている。

クリスマス効果でプレイが盛り上がったからに違いない。

「木村さん、昨日は何人から貢いでもらったの」

課長からのこの質問は、もはや毎年恒例になっている。

「今年はたったの二人ですー」

詩帆さん、普通は一人です。

どうやったら一晩で二人とデートができるんだろう。

分身できるのだろうか。

「去年より一人少ないね」

「一昨年より二人減りました」

「来年あたりは一人に落ち着くのかな」

「どうですかね。来年のお楽しみってコトで」

詩帆さんくらい自分に自信を持つことができたら、欲望に正直に生きていけるのかな。

相手の挙動に一喜一憂して、無駄にハラハラせずに済むのかな。

昨日晴海に能面みたいだと言われたが、確かに私は自分の感情や気持ちを押し殺そうとする癖がある。

私の脳ミソは、ろくなことを考えない。

いつも自分本意で浅はかで、きっとまともじゃない。

そんな自分の頭の中を知られるのが恥ずかしいから、感情や気持ちはあまり表に出したくないのだ。

という性格なのだから当たり前なのだが、恋愛は長続きしなかった。

愛情表現が上手にできない私は、物足りない女として捨てられてきた。

唯一長続きした翔平は、そういう点で私とかなり近い性格をしていた。

けれど、彼との付き合いの中でますます感情を出さなくなった私は、溜め込みすぎて、重荷に潰され、パンクした。

これじゃあいけない。

これからは詩帆さんを見習って、能面を自分でかち割る練習をしなきゃ。

今の私のままじゃきっと、またパンクする。

「ん? 明日香、どうしたの?」

「詩帆さんみたいになりたいと思って」

「熱でもあるんじゃないの? 昨日、汗かいて裸のまま眠ったりしなかった?」

「……してませんよ」

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