ラブソングは舞台の上で
案の定、この日の仕事はなかなか終わらなかった。
電話はバンバン鳴るし、提出された書類が不備ばかりで再提出を待たなきゃいけなかったりして、足止めばかり食らう。
それでも今日やらないと大変なことになる。
明日以降には時間が取れないのだ。
ゴールが見えたところで顔を上げると、時刻は午後9時を回っていた。
行きたかったケーキ屋はもう閉店している。
事務所には私しかいない。
こんなの、久しぶりだ。
たぶん、二十歳の誕生日ぶり。
あの日のことを思い出しながら肩をぐるぐる回してコリをほぐしていると、事務所の扉が開いた。
「あれ? 牧村さん?」
翔平だった。
あの日みたいだ。
「お疲れさまです」
翔平は私しかいないことがわかると、顔を緩めて口調を変えた。
「どうしたの、こんな時間まで」
「溜まってた仕事、片付けてた」
頑張った甲斐があって、もうほとんど処理が完了している。
あと少し頑張れば、何とか年末年始の連休を迎えられそうだ。
「ほんとお疲れ。あ、そうだ」
翔平は自分のデスクの引き出しを開けて、何かを取り出した。
そしてそれを、私のデスクにポンと置く。
私が好きな、コンビニ限定のチョコレート菓子だった。
「別れた後、うちにあったのを見つけたんだ。いつか明日香にあげようと思って引き出しに入れてたんだけど、なかなかタイミング掴めなくて」
「そっか。わざわざありがとう」
「賞味期限は切れてないから、安心して」