ラブソングは舞台の上で
疲れた体に、翔平の優しさが沁みる。
こんなに優しいのに、どうしてこの人を好きなままでいられなかったんだろう。
私が発散できずに溜め込んでいたものって、一体何だったんだろう。
翔平がお菓子の袋を開けてくれて、付き合っていた頃のように、最初のひとつを口に入れてくれた。
4年も付き合っていた習慣がつい出てしまったのか。
それとも彼の未練の表れか。
私は黙ってチョコを咀嚼する。
甘くてコクがあって、おいしい。
翔平は自分のデスクに戻り、パソコンを開いて、何か作業を始めた。
キーボードのタイプ音とマウスのクリック音が、静かな事務所に響く。
「明日香、ちょっと痩せたな。例の運動の効果かな」
「うん。毎日筋トレしてるし、そろそろ腹筋割れるかも」
「ははは、マジで? 何始めたの」
「それは、秘密」
「ケチ。仕事、あとどれくらいかかる?」
「もうちょっとで終わるよ」
「ほんと? 俺も終わるから、家まで送るよ」
ドキッとした。
『俺のヒロインに何かあったら困る』
別にいいよね、元カレだし。
『他のヤツでも、部屋に入れたりしたらダメだからな』
大丈夫。
部屋の中には入れたりしないし。
『千秋楽までは俺の女なんだから』
大体、私たち付き合ってるわけじゃないんだし。