ラブソングは舞台の上で

「ありがと。助かる。急ぐね」

「いいよ。ゆっくりで」

仕事を終わらせると、翔平がアパートの前まで車で送ってくれて、

「じゃ、また明日」

と何事もなく帰っていった。

なんとなく、ホッとした。

翔平が「彼氏」ではなくなってしまってから、少なからず彼を「怖い」と思うようになった。

それは特別なことじゃなくて、女が男に対して、潜在意識的に感じている「怖い」と同じ「怖い」だ。

もし何か気に障って牙を剥かれてしまったら。

もし二人きりになって襲われてしまったら。

女という生き物は、一般的に、男性には敵わない。

急所の心得があっても、必ずしもレバーブローがクリティカルヒットするわけじゃないのだ。

いつか晴海の部屋で簡単に両腕を押さえ込まれたが、結局はあれが、男と女の真実だ。

『今日の俺が理性を保てるとは限らないだろ』

あのセリフは、私を脅すためのもの。

でも、相手が晴海ならそれでも良いと思ってしまった私は、そろそろ認めるべきなのだろうか。

この感情の、正体を。




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