ラブソングは舞台の上で

忘年会はいつものように、工場長の長い挨拶から始まった。

「明日香、年末年始の予定は?」

詩帆さんが何気なく尋ねてきたから、私は詩帆さんだけに聞こえるよう、小声で答えた。

「例の団体の忘年会と新年会が入ってます」

会社の人に聞こえてしまうのに、劇団とかミュージカルと口には出せない。

詩帆さんは「ああ」と事情を納得したように笑った。

「そういえば、今日は一口も飲んでないじゃん。いつもは最初の一杯だけは飲んでるのに」

「弱すぎるから、禁止されちゃって」

変に勘繰られるのが嫌で、それが晴海だとは言わないでおく。

しかし詩帆さんにはお見通しだと、わかってはいる。

「愛されてるのね」

「違います」

出会ってから今までに、“愛されているかもしれない”と勘違いできるような出来事はいくつかあった。

同じ舞台を作り上げるヒロインとして大事にしてくれているのは、決して勘違いではないと思う。

だからって、それを“女として愛されている”と勘違いしてはいけない。

勘違いして、期待しちゃダメだ。

私の心は今、危うい状態にある。

晴海を好きだって認めたくない。

認めたらきっと、舞台に悪影響を及ぼす。

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