ラブソングは舞台の上で
私を呼ぶ声がして、そちらに顔を向けた。
建物の前の段差に座り込んでいる男が一人、私たちの方を見ている。
男は立ち上がり少しだけこちらに近づいて、だけど翔平を警戒しているのかすぐに立ち止まった。
「晴海……!」
どうしてここにいるの?
翔平が晴海を軽く睨んでいる。
晴海もそんな翔平を見据え、怯んでいない姿勢を示した。
二人とも急に険しい顔になって、空気が冷える。
なんだかすごく、嫌な雰囲気だ。
「あんた、何やってんのこんなとこで」
この不穏な空気をどうにかしようと、わざと軽い感じで尋ねてみた。
「メールの返事、来なかったから。電話しても繋がらないし、もしかしたらまたどっかで潰れてるかと思って。送り狼に遭っても困るし、とりあえずここで待ってた」
わざと翔平を牽制するような言い方をしている。
滅多に感情を出さない翔平から、不機嫌オーラが出ていた。
バッグの中から携帯を取り出してみると、確かに晴海から数回着信が入っている。
「ごめん。今まで全然気付かなかった」
「いいよ。無事みたいだし」
あえて“無事”を強調し、少し肩で風を切るようにこちらへ近付いてきた。
無事で済まさないつもりならそれなりの覚悟があるというアピールなのか。
「私、飲んでないよ」
「うん。見たらわかった。えらいえらい」