ラブソングは舞台の上で
晴海は私に笑顔を見せて、でもまた険しい顔に戻った。
二人はお互いがお互いを警戒し、敵意を醸し出している。
火花が散っているのを感じて気が気じゃない。
ケンカにでもなりそうでヒヤヒヤする。
その時、絶妙なタイミングで鼻が疼いた。
「くしゅっ!」
私のくしゃみはアパートの壁や近隣の民家の壁に反射して、やけに余韻をもって響いた。
「寒い?」
彼らの声が重なる。
「うん、ちょっとね」
すると、晴海は翔平にペコッと頭を下げた。
「お邪魔してすんませんでした。失礼します」
そして、足音を響かせ、アパートから去っていった。
『送り狼になるかもしれないんだぞ』
『他のヤツでも、部屋に入れたりしたらダメだからな』
ねぇ、晴海。
私、他の男と一緒に帰ってきたんだよ。
翔平が送り狼になるかもしれないんだよ。
私、うっかり部屋に入れちゃうかもしれないよ。
なのに、帰っちゃうの?
私が翔平に襲われてもいいの?
私が一人で部屋に入るのを、見届けなくていいの?