ラブソングは舞台の上で
私が酒に弱いことを知っているともちゃんは、心配して言う。
「ちょっとたくちゃん。明日香ちゃんを酔わせてどうするつもり?」
「何もしないよー。たぶん」
「晴海ちゃんに蹴り飛ばされるからね」
「平気平気。晴海、全然こっち向いてないし」
男性側の席を見ると、タカさんに何やらプロレス技をきめられて
「ギブ! ギブ! ギブ!」
と叫んでいる晴海が見えた。
本当に、こっちを気にしている素振りはない。
私が卓弥さんの半径2メートル以内にいるというのに、今日は割り込んできたりしない。
「つーか俺、この後すぐ海外に飛ぶから持ち帰り不可だし」
「あ、あのスーツケース、たくちゃんのだったんだ」
「そうそう、俺の」
いいなぁ、海外。
詩帆さんも今年の年末年始は海外に行くって言ってたな。
今からじゃ間に合わないけど、私もどこか旅に出ればよかった。
「卓弥さん、おかわり!」
晴海に聞こえるくらい、大きな声で言った。
聞こえているはずなのに、晴海は私に背を向け、イジられて笑っている。
「はい、よろこんで」
「明日香ちゃん大丈夫?」
「大丈夫」
もう知らない。
晴海なんて、知らない……。