ラブソングは舞台の上で

あっという間でわけもわからなくて、自分が際どい感じに組み敷かれていると気付くまでに、しばらくかかった。

認識した途端に心臓が暴れだす。

前にも晴海の部屋でこんな体勢になったけれど、あの時とは全然違う。

晴海の顔が全く笑ってない。

本気かもしれない。

私の鼓動は手首の脈を伝って、彼にも届いているようだ。

「晴海……?」

ふと押さえつけられていた両腕が解放された。

晴海は私に跨がったまま、両手で自分のマフラーを外し、ダウンジャケットを脱ぎ捨てた。

カットソー越しに体の凹凸が見える。

くぼんだ鎖骨が照明で艶かしい陰影を描いている。

どうしよう、晴海がたまらなく色っぽい。

ドキドキしすぎて苦しい。

「明日香。なんつー顔してんの」

「え?」

「両手空いてるのに、俺を殴らなくていいの?」

ハッとした。

殴ろうなんて、考えもしなかった。

私はこのまま晴海と男女の関係になるつもりでいた。

「チッ……!」

晴海は舌打ちをして、着ていたカットソーと中のTシャツを一気に脱ぎ捨てる。

見惚れるほど私好みの上半身が、余計に私の冷静さを奪っていく。

「最初に俺んちでしたみたいに、思いっきりここに一発入れてみろよ」

自分の右の脇腹を指差す。

だけど今の私には、拳すら握れない。

力なく彼のそこに触れ、筋肉の凹凸に手を這わす。

得意のレバーブローは不発に終わった。

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