ラブソングは舞台の上で
さっきのキスは、何だったの?
酔ってたからって、それだけなの?
部屋にはまだ晴海のにおいが微かに残っている。
ベッドを降りて、深呼吸。
皮膚から、肺から。
火照った体に冷たい空気を取り入れ、のぼせた頭から冷静さを取り戻す。
言われた通り、ちゃんと扉を施錠した。
私たちは主人公とヒロインだ。
しかし本物の恋人同士ではない。
彼にとって私の存在意義は、自分の卒業公演を彩ることにある。
私たちの関係は、そこで終了なのだ。
舞台が終わったら、晴海は大学を卒業して、この町からいなくなる。
そしたらきっと、もう会うこともなくなるだろう。
そんな男に惚れたって、何にも良いことなんてない。
こんな気持ち、さっさと忘れなきゃ。
晴海が正気に戻ってくれて良かったのだ。
そう頭ではわかっているが、悲しい気持ちを癒すことはできなかった。