ラブソングは舞台の上で
彼の言っていることの意味がよくわからない。
「あいつ、ヘコんでるんですか?」
自分がヘコんでいるから、晴海もヘコんでるようには見えていなかった。
もしかして、この間のキスを、落ち込むほどに後悔しているということだろうか。
もしそうだったら、私はもっとヘコむしかない。
「これはまぁ、人生経験豊富なバツイチ子持ちオジサンの戯言だと思って聞いてもらっていいんだけどさ」
「バツイチ子持ちだったんですね……」
知らなかった。
独身だとは聞いていたけれど、まさか離婚歴があるとは予想外だ。
「うん、上の子は堤や恵里佳と同い年」
「そんなに大きいんですか!」
計算上、タカさんが18の時の子供ということになる。
さすがは元ヤン……と言ったら失礼だろうか。
「俺のことはどうでもいいんだよ」
「すみません」
タカさんはタバコに火をつけた。
そういう癖があるのか、一口吸って、一度灰皿にポンと落とす。
このテーブルでは使われていなかった黒い灰皿に、パラリ少量の雪が降った。
「とにかく。晴海はああ見えて人一倍ナイーブだから、ちょっとのことでどこかしら様子がおかしくなる」
「ナイーブ……なんですか」
鍛え上げられた身体の持ち主には、あまりにも似合わない言葉だ。
「もし今、明日香ちゃんと晴海の間に何かあるんだったら、早めに解決させた方がいいよ。3月の舞台のためにもね」