ラブソングは舞台の上で
タカさんは背が高くて、ガタイがよくて、日焼けしてて、アゴヒゲを生やしていて、晴海以上に筋骨隆々としている。
分厚くて大きなに手は、職人として働く彼のプロとしての一面を思わせる迫力がある。
厳つい見た目をしているが、話し方はいつもチャラチャラしていた。
だけどこうしてわざわざ、落ち着いたトーンで話しているということは、きっと「人生経験豊富なバツイチ子持ちオジサンの戯言」ではない本気の話なのだろう。
確かに私たちは今、非常に気まずい。
嫌な雰囲気は確実に存在している。
周りがそれに気付いてしまうほどに。
このままでは稽古に支障をきたすのは目に見えている。
それじゃダメだ。
タカさんは、それを念押ししにきた。
「わかりました。稽古再開までには、何とかします」
「うん、よろしく」
タカさんのタバコの香ばしいにおいが肌と心をくすぐった。
「タカさーん。タカさんどこ?」
向こうの方から、タカさんを呼ぶ晴海の声が聞こえた。
タカさんはまだやや長いタバコを灰皿に押し付け、
「あーあ、もう晴海にバレたわ」
と笑い、晴海の方へと戻って行った。