ラブソングは舞台の上で
「それじゃ、この話の続きは千秋楽の後ってことで」
とりあえず今は、両想いだったという事実を胸に刻もう。
これを自信にすれば、恵里佳ちゃんに立ち向かえる気がする。
それだけでも彼の気持ちを聞いた価値はあった。
虚しいだけで終わらずに済んでよかった。
話が一段落して、お互いがコーヒーをすする。
晴海が突然思い出したように尋ねてきた。
「あ、そういえば。この間のあの男、誰?」
こんなことになってしまった原因は、やっぱり彼だったのだろう。
「会社の先輩」
嘘ではない。
翔平は1つ先輩だ。
「それだけ?」
「……元カレ」
白状すると、晴海の顔色が変わる。
「あいつ絶対まだ明日香のこと好きだろ」
「うん。あの日に復縁を求められた」
あの時の私たちの雰囲気を察していたようだ。
だから邪魔をするように話に割り込んだり、威圧するように迫ってきたりしたのか。
ヒヤヒヤしたけど、今思うと愛おしい。
「それで、どうすんの? そいつと」
そう問う晴海は、不安そうな顔をしていた。
「今はミュージカルに専念する。けど、千秋楽以降はどうだろうね」
少し意地悪な答え方だったかもしれないと思ったが、これくらい許してほしい。
だって、私たちは両想いだけど、愛を誓い合ったわけではないのだから。
晴海は不満気な表情でコーヒーを飲んだ。