ラブソングは舞台の上で

そこまで言わなくても……と思わず言いそうになった。

恵里佳ちゃんが必死に守り続けていた夢やプライドは、高田さんによってすでにボロボロだった。

辛うじて残っていた意地でさえ、彼女の大好きな晴海によってポッキリ手折られてしまったことになる。

ここから恵里佳ちゃんの顔は見えないけれど、静かに涙を流しているのではないだろうか。

ここで私が下手に口を出すわけにはいかない。

タカさんと堤くんだって、ただ二人を見守っている。

私も更衣室の扉の前で、じっと堪えた。

「もっと周りを見ろ。恵里佳の希望が通ってヒロインが交代になったら、全部に少しずつテコ入れが必要になる。衣装なんか、サイズが違うから一から作り直しだ。おばちゃんたちがどれだけ苦労して衣装を作ってくれてるか、恵里佳だって知ってるだろ」

「……うん」

案の定、彼女は鼻声だった。

「それをわかった上で、まだ自分がヒロインをやりたいって言うなら、俺は座長の権限と責任で恵里佳を役から下ろす。女王の役をテコ入れすることになるけど、ヒロインとダブルで変わるよりマシだからな」

背筋が伸びた。

言葉は彼女に向けられているが、私に「途中で投げ出すなよ」と釘を刺しているようでもある。

「恵里佳。それをふまえて、最後に一回だけ聞く。ヒロインを明日香に任せて、女王役、やってくれるか?」

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