ラブソングは舞台の上で
「はい、やります。もうわがまま言いません」
恵里佳ちゃんがそう言って、やっと空気が軽くなった。
タカさんや堤くんも、ホッと安堵の表情を見せる。
「うん。よかった。よろしくな」
晴海は小さな妹をあやす兄のように笑って、恵里佳ちゃんの頭をポンポンと撫でた。
「ひとつだけ、聞いてもいい?」
まだ鼻声の恵里佳ちゃんが、甘えるように問いかける。
「いいよ。なに?」
「晴海ちゃん、明日香さんのことが好きなの? もちろん、女の子として」
……え?
さっきとは違う感じで空気が張り詰めた。
このタイミングで、そんなこと聞いちゃうの?
タカさんと堤くんの視線が私に刺さる。
晴海とも目が合ったけれど、私の方から先に逸らしてしまった。
「好きだよ。女の子として」
晴海は平然とそう告げた。
ドキッと私の胸が跳ねる。
顔が熱くなっていたたまれない。
「そっか、わかった」
恵里佳ちゃんはふっきれたような明るい声で言って、足元に置いていたバッグを肩にかけた。
「堤、帰ろう」
「え、ああ。うん」
そしていつものように堤くんを引き連れて、静かに稽古場を去っていった。