ラブソングは舞台の上で

このままここで寝ているのはまずい。

私は這うようにして部屋へ戻り、ベッドへ潜り込む。

改めて携帯を見てみると、メールと着信がいくつか入っていた。

着信はさっきの翔平以外、全て晴海からだった。

長く着信していたようだが、泥のように眠っていて気付かなかった。

メールも晴海からだった。

『寝てる? 起きたら電話して』

もしかしたら大学かバイトかもしれないけれど、とりあえず起きているうちにと思い、発信してみる。

晴海はコール音をほぼ鳴らさずに出た。

「明日香?」

はやっ!

そう言ってやりたかったけれど、言葉が出て行かない。

「晴海……」

名前を呼ぶのがやっとだ。

「明日香、大丈夫か?」

晴海にだって、風邪ごときで心配かけたくない。

こんな熱、さっさと治すからって、ちゃんと言わなくちゃ。

「うん……大丈夫……」

「それ嘘だろ」

「え……?」

「大丈夫な声してねーじゃん。今の症状、正直に全部言ってみろ」

嘘だろって、正直にって、何それ。

他に何て言えばいいの?

病気の時、心配してくれた人に対して「大丈夫だよ」「平気だよ」「すぐに治すね」以外の言葉を使ったことがない。

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