ラブソングは舞台の上で

「えっと、熱があって、でも、それだけだからだいじょ……」

「そうじゃないだろ。気持ち悪い? 吐き気はある? 体痛くないか? 食欲は?」

晴海は医者じゃないのに、そういうこと、言っていいの?

素直に言っちゃったら、困るんじゃないの?

だから辛くたって、大丈夫って言うのがマナーなんじゃないの?

「大丈夫」

「明日香!」

晴海が電話越しに責める。

私、心配なんてかけたくないのに。

「頼むから、平気なフリすんなよ。ちゃんと言ってくれなきゃ、悪い方にばっか考えるから、逆に怖えーよ」

え? 言わないと、怖いの?

電話越しだけど、晴海の不安が伝わってくる。

私はおそるおそる、自分の状態を口に出した。

「吐き気はないけど、起きるとクラクラする。体は痛くない。さっき食べ物もらったけど、食欲なくて。ていうか、起きてられないから食べられない……」

口に出すと、体が自覚したように悲鳴を上げた。

苦しさが増して涙まで出てきた。

「食べ物もらったって、誰に?」

「会社の人」

「もしかして、例の元カレか?」

「うん、そう。今さっき持ってきてくれたの」

おずおず答えると、舌打ちの音が聞こえた。

「そいつ、それだけで帰ったのか?」

「うん、帰った」

「じゃあ、今は一人?」

「うん、一人」

「一人で大丈夫か?」

「うん」

「本当に?」

「……うん」

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