ラブソングは舞台の上で

晴海が到着したのは、それから20分後。

チャイムが鳴った後すぐにガチャッと扉が開く音が聞こえて、さっき翔平が帰ったときに戸締まりをしていなかったことに気付く。

しかしそのおかげで、私は起き上がらずに済んだ。

「明日香、入るぞ」

「どうぞ……」

自分の弱々しい声が、マスクの中でこもる。

すこし息の荒い晴海は、私の顔を見るなり安心したように笑った。

「よかった。生きてた」

その笑顔を見た私は、なんだかとても安心した。

今まで私が病気になったとき、見舞いにきてくれた人がみんな不安な顔をしていた理由が、今になってやっとわかった。

私が「大丈夫だ」と言ったわりに大丈夫じゃなかったからだ。

大丈夫だとアピールすることが気にしてくれる人のためだと信じていたけれど、それが結果的に不安を煽り、自分まで心を痛めていた。

晴海にはさっきちゃんと症状を伝えたから、そのわりには元気そうに見えたのだ。

だから笑ってくれた。

晴海はそばに来て、そっと私の額に手を当てた。

外から入ってきたばかりの彼の手は、冷たくて気持ちいい。

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