ラブソングは舞台の上で
ゼリーを1本飲み終わったところで時計を見ると、7時を過ぎていた。
もうすぐ稽古が始まってしまう時刻だ。
私が一番練習しなきゃいけない立場なのに、休みたくなんかなかった。
自主練習が裏目に出るなんて、間抜けにも程がある。
こんなことになるなら、ヤンキーなんかにビビってないで堂々と公園を出ておけば良かった。
今さら後悔しても遅い。
「晴海、そろそろ行かなきゃ、稽古始まっちゃう」
私が喚起すると、晴海はあっけらかんとした顔で言う。
「俺、行かねーよ?」
「え? なんで?」
「明日香の看病するっつって、高田さんに許可取ってあるもん」
「私のせいで晴海まで……」
風邪だけでなく、不運をも晴海に感染させてしまいそうで怖い。
「だーかーら、病人は黙って甘えとけって。明日香のせいじゃなくて、俺がそうしたかっただけ」
晴海は私が飲み終わったゼリー飲料のパックをゴミ箱へ向かってポイッと投げた。
パックは緩やかな放物線を描き、ストンとキレイなゴールが決まった。
「でも……」
「ここんとこ、卒論の提出とかフットサルの試合とか大学の用事が立て込んだり、バイト先でインフル欠員が出て休みが潰れたりとかして、忙しかったからさ。久しぶりにゆっくりできて、ちょうど良かったんだよ」
晴海は大学生で、サークルとバイトもやっていて、劇団もやっている。
すごい。
1日24時間では足りないのではないだろうか。
かたや私は毎日会社と家の往復だけだった。
それでも仕事が大変な時期は、忙しいと勘違いしていた。
晴海と出会ってからは、体を動かしたり台本を覚えたり夜中まで練習したりと、活動量は大幅に増えている。
ひどい風邪を引いてしまったのは、体が疲れて弱っていたのも一因かもしれない。