ラブソングは舞台の上で
晴海は着ているダウンジャケットを脱ぎ、私が朝から放置していたテーブルの食器を洗い始めた。
キッチンに立つ彼の背中を見つめ、試すように言葉を投げる。
「風邪うつっちゃうから、もう帰りなよ」
寂しいから、今夜はここにいてほしい。
「やだよ。病人は甘えろっつっただろ」
「私、たぶんもう大丈夫だから」
一日眠ってたのに良くならなくて、不安なの。
「アホか。それだけ熱があるくせに、どこが大丈夫なんだよ。明日一緒に病院行こうな」
全然素直になれないのに、晴海からはちゃんと言ってほしい言葉が返ってくる。
晴海って、すごい。
やっぱり好きだ。
この人との出会いに、心から感謝しよう。
嬉しくって泣きそうだ。
熱で涙腺も弱ってしまったのか。
「晴海」
「んー?」
だったら、今夜は少しだけ。
熱にかこつけて、本音を解放してみてもいいかもしれない。
「抱きしめて」
マスク越しではあるが、ハッキリした口調で告げたつもりだ。
最大限の勇気を振り絞って言った言葉を、聞き返されたりしては敵わない。
晴海はキュッと蛇口を閉め、タオルで手を拭って、こちらを振り返った。
「言われなくても、そのつもりで来たんだよ」