ラブソングは舞台の上で
翌日、稽古場に入ると、珍しく卓弥さんが来ていた。
清潔感のある整った顔、メガネから醸し出される知性、スーツというコスチューム。
女子が好きな要素を全部詰め込んだような彼は、私を見つけるなり満面の笑みを見せた。
「明日香ちゃん。待ってたよ」
「お久しぶりです」
彼の美しさに心を持って行かれそうになるが、それを察した晴海が警戒して間に入り、私の視界から卓弥さんを追い出す。
晴海の後ろから、卓弥さんのため息が聞こえた。
「晴海、お前はとことん嫌なヤツだな」
「明日香を食われちゃ困るんでね」
「俺は今日、明日香ちゃんに会うためだけにここへ来たんだよ」
卓弥さんは晴海を押しのけて私の前へ。
晴海は監視するように腕を組んで卓弥さんの後ろに佇んだ。
「やっと追加の曲ができたんだ。待たせてごめんね」
CDと歌詞カードを受け取る。
透明のプラケースに収められたディスクの表面には、キレイな字で『アンジェラ追加曲』と書かれている。
顔だけでなく、字まで美しい。
「ありがとうございます」
私のために作られた3曲だ。
特別な思いが込み上げる。
「曲調はワルツとバラード、そしてロック!」
卓弥さんの声に、周りにいたみんなが声を揃える。
「ロック?」
いくらオリジナルだからって、そんなのアリなんですか?
「ロックバンドやってたんでしょ? せっかくだから、聞きたいなと思って」