ラブソングは舞台の上で
「その後、どうだったのぉ?」
詩帆さんは案の定、ニヤニヤと下世話な話を期待する表情で詰め寄ってきた。
「その後って、別に何もないですよ」
私は一歩下がって笑顔でごまかすが、笑顔に騙されてくれるような相手ではないことは承知している。
「何もないってことはないでしょ。カラオケのとき、あの子、わざわざマイクを使ってお持ち帰り宣言してから即、明日香の荷物を抱えて出ていったよ?」
あの子とは、無論、田代晴海のことである。
私が潰れてる間にそんな事が……。
「た、確かに彼の部屋にお世話になりましたけど、私酔ってたので、本当に何もなかったんですって」
特別なことがあるとしたら、ミュージカルのヒロインに抜擢されたことくらいだ。
承諾はしたものの、まだどうなるかはわからない。
ここではあえて報告しないことに決めた。
詩帆さんはおもしろくなさそうな顔で歩きだす。
私も同じ歩幅でついていく。
「それにしても明日香、歌超うまいじゃん」
「あー……はい」
そうだった。
晴海のせいで、詩帆さんにバレてしまったんだ。
「会社の飲み会の時もカラオケは断固として来ないから、オンチなんだと思ってた」
そう思われてしまっても仕方がない。
本当に会社の人とは一度もカラオケに行ったことがないのだから。