ラブソングは舞台の上で
電話の後ろで晴海を責める声が聞こえる。
これ以上彼を悪者にしてしまうのは心が痛い。
私が羞恥心を感じていたことは、じきにみんなにも伝わるはず。
そうなれば、きっとみんなも同じように私に怒りを覚えるのだろう。
劇団を去る私こそ、憎まれ役になるべきだ。
「ごめんね、ともちゃん。私が悪いの。晴海は必死に頑張ってたのに、私がそれを踏みにじるようなこと言っちゃったの」
「そんなの信じられないよ。明日香ちゃん、ずっと必死だったもん」
「うん。必死だったけど、精神的に未熟すぎた」
「そんなことない! どうせ晴美ちゃんが勝手に怒ってるだけなんでしょう?」
稽古場の情景を思い描いていると、ふとあることを思い出した。
「あ、ともちゃんにひとつお願いがあるんだけど」
「なに? 何でも言って」
私はともちゃんに、チョコレートの回収をお願いした。
冷蔵庫の中だからすぐに腐敗することはないと思うけれど、このまま悪臭を放つまで放置されると思うとどうしても気がかりだ。
それに、後になってあの手紙を読まれるのも……。
「中身は出したりせずに、こっそり紙袋ごと破棄してね」
そう念押ししたけれど、それがバレンタインのチョコであることは一目瞭然だろう。
誰に渡すチョコだったかも、察するはずだ。
あんなもの、今さら晴海の目になんか触れさせたくない。