ラブソングは舞台の上で

「上手すぎるって逆に引かれてしまうから、わざと避けてたんですよ」

「なるほどね。あのレベルだもんね。明日香の次には歌いたくないって思うもん」

「だから、みんなには内緒にしておいてくださいね」

「明日香が彼とのことを正直に話してくれたらね」

「本当に何もなかったんですってば!」

「どうだかね〜」

私と詩帆さんが事務所の入り口である扉の前に到着すると、左から作業服を着た男が同じタイミングでやって来た。

「あっ……」

相変わらずぶっきらぼうな彼の顔を見た途端、私は軽く驚きの声を上げた。

今までの会話、もしかして彼に聞かれちゃった?

「森くん、おはよう」

「おはようございます、木村さん」

詩帆さんが手を振ると、この彼、森翔平(もりしょうへい)は、律儀にぺこりと頭を下げる。

「おはようございます」

私もよそよそしく声を掛けると、

「おはよう」

とよそよそしく返ってくる。

そして彼は自ら扉を開き、詩帆さんと私を先に事務所に入れてくれた。

表情が固くてぶっきらぼうだけど、穏やかで優しい。

それが彼の性格だ。

私と詩帆さんは先に出社をしていた男性たちに挨拶をしながら席に着く。

「ねぇ、明日香」

パソコンの電源を入れた直後、詩帆さんが小声で私を呼んだ。

「はい?」

「どうして森くんと別れたんだっけ?」

その質問に、私は何も答えず冷めた視線だけを返す。

詩帆さんはイタズラな笑みを浮かべて、提出されている書類の処理を始めた。

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