ラブソングは舞台の上で

「明日香。遅い」

聞き覚えのある声に、足が止まった。

声がした方を見上げると、私の歌を聞いていたと思われる男が、私を見下ろしていた。

晴海だった。

私は立ち尽くし、酔っ払った頭で記憶を手繰り寄せる。

こいつに会ったら言ってやらなければならないことがあったはずだ。

ええっと、なんだったっけ。

「晴海……なにしてんの、そんなとこで」

自分が誘って散々巻き込んできたくせに、独断でクビにするなんて頭おかしいんじゃないの。

「明日香を待ってたんだよ」

学生だし、ゆとりだし、周りが見えてない責任知らずのガキね。

「何か用?」

これから就職して上の人間に散々罵倒されて、ちょっとした一言でキレたりしない程度は精神的に大人になってから出直してこいっての。

「みんなに、明日香を連れて帰らないと殺すって言われた」

つーか学生の分際で働いてる女の貴重な自由時間を自分のために使わせようだなんて、厚かましいったらありゃしないわ。

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