ラブソングは舞台の上で

強い風が吹いた。

もう春一番が吹く時期に差し掛かったのだろうか。

顔に当たる風が冷たくて、思わず目を閉じて顔を背けた。

目を開いたときには晴海が階段を下りていて、次の瞬間には私も駆け出していた。

互いの距離がなくなると、彼の手が私の後頭部に当てられ、条件反射で目を閉じる。

唇が触れ合っていた数秒間は、風の音も冷たさも感じなかった。

いったん離れると、思い出したように唇が冷える。

「するつもりで、来たんだよ」

もう一度触れて、手を引かれる。

手早く鍵を開け、扉の中へ。

二人きりの世界に飛び込んだような気がして、止まらなくなった。

単身者用アパートの狭い玄関。

靴も脱がずにきつく抱き合い、貪るようにキスをする。

くっついていたい。離れたくない。

いっそのことひとつになってしまえたらいい。

心が熱くて身が溶けてしまいそうだ。

私が段差につまずき転びそうになったタイミングで、やっと靴を脱ぎ、室内へ。

私たちはどちらからともなくベッドへ転がり込んだ。

< 250 / 315 >

この作品をシェア

pagetop