ラブソングは舞台の上で
詩帆さんは笑いながら着替えを始めた。
私はぼんやり更衣室のベンチに座って詩帆さんと喋っていたのだが、詩帆さんがかがんだ時に見てしまった。
広く開いたデコルテラインから見えた、黒のセクシーなブラ。
覆いきれずにはみ出している、無数の赤い斑点。
私はそれとよく似たものを、今朝浴室で見た。
「詩帆さん、それ……」
思わず指摘すると、詩帆さんは眉間にしわを寄せた。
「ああ、これ? 時々付けられて困るのよ。デート断らなきゃいけなくなるし」
サッと素早くブラウスのボタンを締める。
「オヤジさん、本当は詩帆さんのこと独り占めしたいんじゃないですか?」
「私にもオヤジを独り占めさせてくれるんだったら、それでいいんだけどね」
相手は性欲が落ち着くまで女遊びを続けると宣言している男だ。
そうはいかない……か。
なのに自分は詩帆さんを独り占めしようだなんて、勝手すぎる。
そんな男のどこがいいの?
顔? 顔なの?
それとも晴海が私だけにちょっぴり意地悪なのと同じで、卓弥さんも詩帆さんにだけ見せる顔があるのだろうか。