ラブソングは舞台の上で




待ち合わせは午後7時過ぎ。

いつものショッピング施設の1階。

晴海は朝とは違う服を着て現れた。

顔を合わせると昨夜のことを思い出し、二人して照れる。

「鍵……返すわ」

「え、あー、うん。ありがと」

テーブルに置いておいた鍵が、返ってきた。

私はそれを握りしめ、小さな金属に移った彼の熱を冷たい指に吸収した。

間接的に手を繋いでいる感覚を覚え、余計に昨夜を思い出す。

「あのさ、明日香」

落ち着いた声で呼ばれた名前。

「は、はいっ」

なにか大事なことを言うのだと察知して恐縮する。

「千秋楽まで待てずに色々順番が前後したけど、俺たち、ちゃんと付き合おう」

周りに人がたくさんいるのに、晴海は潔く堂々と言ってのけた。

隣の柱に寄り掛かっていた女の子は私たちの会話を聞いていたようで、驚いている。

そんなことを言ってもらえるなんて思っていな
かった。

私たちは確かにお互いに好き合っているし、昨夜に至ってはセックスまでしたけれど、関係はこのまま曖昧にするのだと思っていた。

晴海には、舞台が終わるとすぐに華やかな新生活が待っている。

田舎くさい私なんかが彼の気持ちをキープできるほど、恋愛は美しいものではない。

だけど、付き合おうと提案してきたということは、その努力をしてくれるということだ。

それが嬉しくて、涙が出る。

「うん!」

何度も頷いて答えると、晴海が笑顔になった。

「泣くなよ」

「だって、嬉しくて」

「俺も嬉しい。遠くに行く男なんかと付き合えないって言われたらどうしようとか、思ってたからさ」

涙で崩れたメイクのお直しに時間を費やしたため、復帰当日から時間ギリギリでの稽古場到着になった。

< 261 / 315 >

この作品をシェア

pagetop